書道は文字どおり,字を書くこと,その書き方を習うことです.
日本では,古来芸術のひとつとされ,また,教養人に書かせない素養とされてきました.達筆であることは,その能力だけでなく,書き手の人柄さえ表すものと考えられてきました.だからこそ,書道が学校教育の中で必修科目とされてきたのです.日本に滞在あるいは居住する外国人の方々にも是非,経験していただきたいことのひとつです.書道を通して,日本文化を理解するかぎが得られることでしょう.
書道を始めるにあたっては,紙,墨,筆
を用意すれば十分です.幸い,私たちの住む広島の近くには熊野,川尻という上質の書道用筆の産地が二つもあります.どちらも車で一時間程の距離です.日本で生産される書道用筆の約90パーセントが両地で作られています.
筆の形は芸術的なまでに簡素で直線的ですが,その製造の工程は複雑を極め,職人さんの筆に対する深い愛着を要します.上述の二産地では殆どの筆が手作りであることをご存じになれば,彼らの技の巧みさに感嘆の念を抱かずにいられないでしょう.
完璧な円錐形の筆先を形作るのは人のなせる技の限界を越えているように思えます.ある職人さんの話によると,一人前になるには少なくとも10年はかかるとのことです.何という忍耐強さでしょう.
筆に使われる素材は多様です.中国産の羊(日本では山羊と呼んでいる種類のもの),馬,猫,狸,兎,鹿,白鳥や雉などです.なかには遥か中国北部や韓国の草原から取り寄せられたものもあります.伝統的な日本文化を味わいながら,国際的な感覚にも触れているのです.
もし,あなたが手作りの好きな方でしたら,先にご紹介した産地で筆作りを体験することもできます.また,資料館も一般公開されています.
日本ではお正月は新しいことを始めるのにふさわしい季節です.最寄りの産地へお出かけになって,経験を積んだ職人さんによって丹精込めて作られた好みの筆を買い求めて,新たな世紀に向けての抱負をしたためてみませんか.心も和んで,2002年という新しい年を迎える心の準備もできることでしょう.