猿猴川(えんこうがわ)は広島市内を流れている6本の川の1つである。広島駅前で京橋川から分かれて、マツダの工場に沿って流れ、広島湾に注いでいる。「猿猴」というのはカッパのことで、広島では古くからそう呼ばれており、「猿猴川の猿猴」という民話がある。
むかし、むかし、ある夏の月夜の晩、松原町(現在の福屋駅前店の近く)で米問屋を営む若主人の清吉が、一人で猿猴川の川岸に腰をかけ、川風に吹かれていた。すると、川土手から頭の白いおばあさんが、「こんばんは、米屋の若旦那の清吉さんではがーんせんかいの」と声をかけてきた。おばあさんは川岸まで降りてきて、清吉と並んで腰を下ろした。清吉はしばらくおばあさんの話を聞いていたが、おばあさんの髪の毛が黒々としているのに気がついた。いつしかおばあさんの話は自分の娘時代の話にかわっていた。「そんなある夜、わたしは、清吉さんという若い人と知り合いましてな…」。清吉は自分と同じ名前が出てきたのに驚いておばあさんを見やると、ニッコリ笑ったおばあさんの顔は、いつのまにか若く美しい娘の顔に変わっていた。その娘の顔は、さっきおばあさんが嫁さんにもらいなさいと勧めてくれた娘の顔であった。気がついてみると、おばあさん、いや、娘の手が腰にまわり、清吉の手を固く握りしめようとしていた。突然、土手のうえの道路で「あ、えんこうだ!」と誰かが叫んだ。そのとたん、ザブンと何かが川に飛び込んだ音がして、おばあさんの姿も、娘の姿も消えていた。もし、誰かが通りかからなかったら、清吉はカッパに川に引きずり込まれていたかもしれない。
カッパは、日本の水辺に住んでいるといわれる想像上の水陸両棲動物である。水の神が姿を変えたものとも考えられている。普通は、12〜3歳のこどもくらいの姿かたちをしていて、顔は虎に似ていてくちばしがある。髪はいわゆる「おカッパ頭」といわれる断髪で、頭には皿と呼ばれる少量の水の入っているくぼみがある。その水がなくなると、陸上でのカッパの超能力はなくなってしまう。カッパのぬるぬるした身体には青緑色のうろこがあり、手足には水かきがある。地域によってはカッパは田植えや灌漑の手助けをしてくれるともいうが、ふつうは人間や動物を襲うと考えられている。特にカッパは犠牲者を水に引き込んで尻子玉を抜き出して食べるのが好きだという。また、カッパは胡瓜も好物だという。親が子供達に川や池で泳ぐのが危ない場所を戒めるのにカッパを引き合いにだしていた。